大阪地方裁判所 昭和54年(ワ)5167号 判決 1980年11月28日
原告
オオエム建設株式会社
右代表者
南壽々子
右訴訟代理人
浜崎憲史
同
浜崎千恵子
被告
吉岡長成
右訴訟代理人
片山善夫
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実《省略》
理由
一原告が不動産の仲介等を業とする商人であり、被告が昭和五四年の四月末頃か、五月二日かはともかく、いずれにしてもその頃、原告に対し、被告所有の本件建物を代金一三〇万円位で売却するように委任し、同月二六日には被告の求めによる販売促進のため、原・被告間に、すくなくとも代金を被告の手取額金一二二〇万円までに減額し、委任期間を同年一一月末日までとするとの合意が成立したこと、以上の事実は、当事者間に争がない。
ところで、販売促進のために原・被告間に成立した右合意の趣旨であるが、原告の主張に従えば、いわゆる期限の定めのある委任状付仲介契約であつて、被告は、委任状を交付した原告に対し専属的に仲介を委託するもので、約定期間中に原告の努力と無関係な買受希望者が出現した場合でも、その者との取引に原告を被告側の仲介者として関与させる義務を負うというにある。そこで、この点につき検討することとし、<証拠>を総合すると、右販売促進のための原・被告間の合意は、原告側で用意した原告宛の「不動産売却委任状」なる書面に被告が前叙争のない約束事項などを記載して原告に差入れることによりなされたこと、同書面には、委任「期間中他より交渉がある場合必らず貴殿を仲介者として経由せしめる」との文言及び売却委任の趣旨が印刷されていること、原告は、右合意前には本件建物の所在場所を秘した極めて簡単な紹介記事を業界紙に掲載したにすぎなかつたが、右合意後の広告宣伝は、本件建物の所在図及び間取図を印刷したちらしを新聞折込の方法により配布して行つたこと、このように広告宣伝の方法にこそ顕著に相違がみられるものの、原告の立場は一貫して仲介者であつたこと、以上の事実を認めることができ、この認定に反する証拠はない。
右に認定の前者の広告宣伝方法であれば、その記事を見た買受希望者は、原告を通じない限り本件建物の調査や取引が出来ないから、その努力と効果が連動することが一応保証される仕組みになつているけれども、後者の場合には、記事を見た買受希望者が原告を全く通ずることなく、被告と直接取引をすることが出来るし、他の業者がこれを利用して仲介をするなど原告の努力が全く徒労に終る危険もあるから、これを防止するため被告との間に何らかの取り決めを必要とすることはいうまでもないところである。そして、その取り決めとしては、被告が原告に差入れた書面に印刷されている右認定の文言による約定及び他の仲介業者を排除する約定をもつてすれば十分というべきであろう。
この見地に右認定事実並びに<証拠>を総合すると、販売促進のため原・被告間に成立した合意は、その年の一一月末日を期限とし、さきに説示した原告主張の内容による、いわゆる委任状付仲介契約であつたと解するのが相当であり、これに反する被告本人の供述部分は採用するに足りないというべきである。
二しかるところ、被告が右期限内である同年七月二三日原告の仲介を受けることなく、ドリアンに対し本件建物を代金一二八〇万円をもつて売却する旨の契約を締結したことは、当事者間に争がない。
原告は、この事実を捉え、被告に前記仲介契約に基づく債務不履行があつたと主張する。これに対して被告は、右売買契約締結前である同年六月二八日原告に到達の書面をもつて、原告との仲介契約を解除する旨の意思表示をしたから、同契約が終了した後に売買契約を締結したのであつて、債務不履行の責任を問われる筋合はないと主張する。
被告がその主張のとおり、原告との仲介契約を解除する旨の意思表示をした事実は、原告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなすべきである。
しかし、原告は、本件の仲介契約による事務処理が原告の利益となる場合であるから、やむをえない事由でもない限り被告において同契約を解除しえず、従つて被告の右解除の意思表示は効力を生じないと主張するので、検討する。
元来、仲介契約は準委任と解するのが相当であつて、民法六五一条の規定により各当事者は何時でも自由に同契約を解除しうるのである。そして、この点は本件の如く期限の定める委任状付仲介契約にも妥当するというべきである。蓋し、まず期限の定めの趣旨は、仲介の目的達成を希望する時間的限界として、原告に対し制約の機能を果すにとどまるものであつて、被告の解除自由に消長を及ぼすものでないと解するのが相当であり、また有償の点も同断であつて、他に委任状付仲介契約を異別に扱うべき事由は見出し難いからである。
もつとも、原告は、本件の委任状付仲介契約が原告の利益のためにもなされたと理解すべき主張をする。しかし、委任者による契約の解除を制約する受任者の利益とは、債権担保のための取立委任のように委任事務の処理と直接結合した利益をいうのであつて、委任事務処理の結果として取得する報酬は、これに含まれるものではないところ、原告が本件仲介契約につき委任事務の処理と直接結合した利益を有すると解すべき事由は認め難い。
してみれば、被告の本件仲介契約解除の意思表示は、その効力を生じたものというべきである。<以下、省略>
(石田眞)